凸森の思弁的卵かけごはん

アニメ/マンガ/本/音楽/映画/グルメetc...エンタメ関連を中心に、日々の徒然を綴るブログです。

鈴木くんちの塀

懐かしい音楽はいつもなじみのない路地から聞こえてくる
部活の朝練へ向かう自転車の上で
架空の“あの子”について考えながら
聞いていた
今はもう聞くことの出来ないセンチメンタルなメロディーと歌詞と叫び
ぼくはもう知ってしまっている
ふたつのものを同時には所有できないということを
顔なじみの中田くんとは心が通じ合わない
幼なじみのみさちゃんとは高校を卒業してから一度も会っていない
心通える友の鈴木くんの顔をぼくは思い出せなくなってしまった
鈴木くんは僕に一銭も金を貸すことはなく
30年ローンで一戸建てを買った
鈴木くんは2メートルの塀を外注した
塀は路地を作り出すための大切なもののひとつ
なじみのない路地から聞こえる懐かしい音楽
それは他人行儀な壁の向こうから響いてくる
音楽と一緒にほのかに聞こえるどこかで聞き覚えのある声と名前
その名前のひとつがぼくの名前であると気づいた時には
ビジネスビルが立ち並ぶ都会の大通りで
なんとなくタクシーを止めた