月見シナプス

もう、きみだけだよ
言葉の力、まだ信じてるの
ぼくたちはもう言葉なんて使わなくても
脳のシナプス信号をそのまま他人に伝える技術が出来たから
もう、言葉なんて使わなくても
思いを伝えることが出来るの
「今夜は月がきれいだね」
なんて、回りくどいこと言わなくても
「きみが好きだ」って思ったら
もう、相手に思いを伝えられるの
きみが笑うということはきみが楽しんでいる比喩だから、
涙というものは君が悲しんでいる比喩だから、
（いや、もしかしたら涙の出る深夜アニメをみているのかもしれないね？）
比喩ということは、言葉だから、
言葉を必要としない世界、そしてその世界の住人
きみもその住人のひとりであるはずなのに
ぼくのとなりで
ずーっときれいな満月を見上げて
「今夜は月がきれいだね」って
言葉にするんだ
そしてぼくを恨めしそうな目で見てる
“そんな目をするぐらいなら　いっそうきみが月になればいいじゃないか”
そんなシナプス信号が
ぼくの脳に流れた
よかった
おかげでぼくの中にあるきみへの思いは
雲隠れした
未だに言葉の力を信じている
たったひとりの
時代遅れのきみへの