レターズ
「地球は病んでいる。僕が救うんだ」
そう言い残してきみは旅に出た。
それからどれくらいの時が流れたのだろう?
元気にしていますか?
あたたかいご飯を食べていますか?
寂しさや孤独に打ちのめされていませんか?
地球では相変わらず、自分のことだけしか考えない人たちで溢れています。
政治家も資本家も学者もサラリーマンも主婦も学生も、みんなみんな、自分の欲望をいかに満たすかしか考えていません。
インターネットを見れば、大体わかります。
要は、お金なんです。
お金に関係しないことはやらない。
きみみたいな人間を、この世界では"きょうじん"と呼んでいる。
お金のことなんか考えず、自分のこともないがしろにして、誰よりも地球のことを考えている、きみのことを。
「こんなの、まちがってる」
そう叫びつづけていたら、わたしはこわいひとたちに連れられてちいさな部屋にたどり着いた。
この手紙もちいさな部屋から書いています。
ちいさな部屋はとてもあかるくて、おしゃれな洗面台があって、蛇口からはきれいなみずが出てくる。
きれいなみずはとてもおいしい。
トイレもとてもきれいです。
わたしがどれだけきたないはいせつぶつを毎日はいしゅつしても、トイレはそれらをあとかたもなくきれいにしてくれる。
あとかたもなく、きれいに。
まるでわたしが最初からそんざいしなかったみたいに。
仕方ないから、わたしはながい時間ねむっている。
わたしはいま、ねむりについている。
まぶたをとじるということ、それだけがわたしの意志表示であるかのように感じる。
インターネットできみの名前を検索したら、きみのこと、たくさんヒットしたよ。
こんな予測ワードと一緒に。
〈いかれぽんち〉
〈きょうじん〉
〈きちがい〉
〈ばか〉
〈あほ〉
〈くず〉
、、、、
みんな蔑みを伴う好奇心を以ってきみを検索する。
インターネットって、こわい。
だってその中に、きみに実際に会ったことある人なんかひとりもいないんだから。
みんなきみを頭の中のイメージできみを蔑むんだ。
でも、ひとついいニュースがインターネットにありました。
きみがいま、地球を救うために冥王星に向かっていること。
ヤフーの片隅のちいさなニュースで見たよ。
冥王星のちかくに、大きな穴があって、そこをくぐると、ちがう次元の宇宙があって、その次元の地球は、わたしたちのこの地球とはちがう地球があって、その地球は病むことなく、みんなが自分のことだけじゃなくて、もっと大きなものについて、もっと大切なものについて、考えている。自分のことよりもっと大切な何かを、みんなが共有している、そんな、ここではない別の地球。
そこにたどりつくために、きみは何億光年もの孤独の宇宙の軌道に乗って進んでいる。
それは一体、どういうことなんだろう?
きみは一体、なにを考えている?
"この"地球のこと、いまでも救いたいと思えている?
思っていたとしたら、きみはきっと、"きょうじん"にふさわしい。
きみのかかえている孤独、わたしにはちょっと、耐えられない。
だってわたしはこのちいさな部屋にずっといて、100年以上きみに会っていないということだけで、さみしさを、孤独を、感じてしまうのだから。