凸森の思弁的卵かけごはん

アニメ/マンガ/本/音楽/映画/グルメetc...エンタメ関連を中心に、日々の徒然を綴るブログです。

魔法少女ひとみ☆マギカ

 神様
 神様
 神様
 
 3回あなたの名前を唱えさせて頂きましたので、あなたは今私の目の前にいらっしゃいますわよね?えぇ、きっといらっしゃいますわ。いないはずがありません。わたくし、もう耐えられませんの・・・。我慢の限界ですわ。わたくしは何のために魔法少女になったかしら?わたくしは何のためにあの白い悪魔に願ってさやかさんを蘇らせたのかしら?わからなくなってしまいましたの。そう、なにもかも。。。

 あの日、喫茶店でさやかさんに上条君への思いを告白した後、わたくしは無邪気な高揚感に浸っておりました。さやかさんが上条君を好きなのは明白でございました。そして、さやかさんはわたくしの大切なお友達でしたわ。ですので、わたくしはわたくしの上条君への思いを隠し通そうと努めておりました。でも、わたくしにはそれができなかった。それは大切なお友達であるさやかさんに自分を偽っているってことでしょう?だから、わたくしはさやかさんに言いましたの。
「あなたの本当の気持ちと向き合えますか?」
えぇ、失敗でした。大失敗でしたわ。わたくしは浅はかで浅薄で、そして何も分かっていない子どもでしたわ。これでさやかさんと対等になった。さやかさんに正々堂々と向き合ったのだから、私も上条君のことを好きでい続ける資格を、上条君に自分の思いを告白する権利を、得られた、、、

なーんて、思ってましたわ。

 さやかさんに自分の気持ちを告げた三日後、私は上条君に思いを伝えるために一緒に下校しましたの。てっきりわたくし、さやかさんはもう上条君に自分の思いを告白したのかと思ってましたわ。ですので、わたくしフラれると思ってました。

「ごめん、仁美さん。君の気持ちはよく伝わったよ。ありがとう。でも僕、さやかのことが・・・」
 
 脳内で何度も、上条君のセリフをイメージしてましたから、覚悟は出来てましたわ。ですでのわたくし、次に言うセリフを家で考えてきてましたの。

「そういわれると思いましたわ。分かってましたもん、わたくし。上条君がさやかさんのことずーーーーーっと好きだったってことも、さやかさんが上条君のことずーっと好きだったってことも、全部お見通しですわ。明らかにどう見ても明白じゃございませんこと!?だって学校帰りに毎日お見舞いに来てくれる幼なじみなんていると思います?そんなのアニメにしか登場しませんわ!そんなの好きだからに決まってますわ!愛しているからに決まってますわ!あー羨ましいこと!!!そんな風に、誰かから思われるなんて。。。私もいっそのことこの腕を折ってみようかしら?その時は、上条君毎日わたくしのことお見舞いにきてくれます?・・・こないでしょうね。。。いいえ、いいんです!それが当たり前ですわ!だって上条君と私はただのクラスメイト。上条君とさやかさんは幼なじみ。入り込む隙なんて最初からなかったんですわ。いいんです!同情の言葉なんて掛けないで下さいまし!わたくしは箱入りのお嬢様!お金持ちの家に生まれたぐらいで何の取り柄もありませんのよ、おほほ!!!・・・お往きなさい!もう!さやかさんを一生大切にして下さいね。。。そして、出来ればわたくしのこと、忘れないで下さいまし。。。あなたとさやかさんの足下に、あなたのことが好きだった、惨めな徒花が咲いていたって事を・・・」

 もうほとんど涙声でしたわ。自分がなに言ってるのかさっぱり分かりませんでしたわ。先日ちょうど演劇のお稽古を始めた所でしたの。だからわたくし、身振り手振りで自分の感情を表現しようと動き回ってみましたけど、何だか歌舞伎みたいな滑稽な感じになっていたでしょうね。あぁ、穴があったら入りたいったらありゃしない!
「あ、あの、仁美さん・・・何の話をしているの」
「・・・はい、わかってますわ、上条君。あなたは今さやかさんとおつきあいされて」
「いや、僕、さやかと付き合っていないよ。むしろ僕も君のこと、好きだったんだ。」
「・・・はい?」

 な・・・なんですって!?さやかさんと付き合っていない!?そしてあろうもことに私の告白OK!?ということは・・・そして辺りを見回しましたわ。そしたら向こうの木小屋の所で何やら人影が恨めしそうにこちらを見ているじゃございませんか!あの女、言わなかったんですわ!自分の気持ちに向き合わなかったんですわ!なんて女なの!?わたくしに、上条君を譲ったということ?わたくしは勝負する価値もない女だということ!?
 何て傲慢な女!
・・・卑怯者、、卑怯者、、、卑怯者!!!!!!!!!!!!!!!!!
 あの時、木小屋から離れて行くさやかさんの目、遠くからでよく見えなかったですが、でもひとつだけ分かることがありましたわ。同じ目をしていましたの。昔、わたくしの家に訪れた事業に失敗したおじさんの目と、まったく同じ。輝きがないんですの。瞳のハイライトが、ないんですの。それは遠くからでも分かりますわ。だって生きている人間のそれとは、まったく別物なんですもの。そのおじさんはお父様にお金を工面してくれないかと、頭も下げず、手も合わせず、只うなだれて言いましたわ。お父様は何も言わずに100万円入った茶封筒を渡しておじさんを帰らせました。その3日後、おじさんは自殺しましたわ。100万円を全て競馬につぎ込んで。。。

 わたくしは上条君と別れた後、さやかさんを追いましたの。家に行ってみましたけど帰っていないようでしたわ。町中走り回りましたわ。探しましたわ。探しましたわ。探しましたわ。でも、見つかりませんでしたわ。

 次にさやかさんに再会したのは、告別式の時でしたわ。さやかさんのご両親、ご親族、クラスメイト、みんな泣いていましたわ。「どうして・・・どうして・・・」みんながさやかさんの死を受け入れられていませんでしたわ。上条君も、泣いてましたわ。

 わたくし、ちっとも涙が出ませんでしたわ。これっぽっちも。
 だって、もう、なんとなく、わかっていましたもの。
 さやかさんのあの目を見てしまった時からもう。
 この人はもう、向かっていたんですわ。
 自己の破滅への道へ。
 願っていたんですわ。
 この世界からの解放を。
 
 だからわたくし、涙が出ませんでしたの。泣かない代わりにわたくしは、自分でも呆れてしまうほど冷静な目で、辺りを見回していましたわ。すると意外なことに、鹿目さんも泣いていませんでしたの。とても冷静な目をしていましたわ。とても聡明な目をしていましたわ。目の前のさやかさんの死を嘆き悲しむのではなく、目の先にあるまださやかさんを救えるかもしれないかすかな可能性を見ているような、そんな目をしてましたの。。。
 
 ねぇ、鹿目さん。
 わたくしたち、親友でしたわよね?
 いつも三人で、小川沿いのあの道を、毎日登下校していましたわよね?
 もう、あの道を三人で歩くことは、永遠に訪れないんですわよね?
 これでおしまい。
 鹿目さんとも、もうあの頃みたいに、おしゃべりすることはないかもしれませんわ。
 鹿目さん、あなたは遠くへ行ってしまうんでしょう?
 あなたの横顔に潜む影を見れば、なんとなく分かりますわ。
 戻ってこないんでしょう?
 この世へは。
 賭けるんでしょう?
 魂を。
 対価は希望。
 このさやかさんの死の絶望さえもかき消してしまえるほどの、途方もない希望を、、、、それなら、、、わたくしだって、、、、
 
 葬儀後、しばらく、わたくしは学校を休みましたわ。身体が動きませんでしたの。いえ、動くんですけども、どういう風に自分を振る舞えばいいか、まったく検討がつきませんでしたの。わたくしのどんな動きも、言葉も、いえ、わたくしが存在すること自体が、不適切のような気がして。。。わたくしが次に学校に行ったのは、さやかさんの告別式から一週間後でしたわ。わたくしはいつも三人で歩いた小川沿いの道をひとりで歩いて、学校に向かいましたわ。
 教室に入る前、わたくしは扉の前で深呼吸をしましたわ。みんな、わたしのことをどんな目で見るのかしら?異物が入ってきたような目で、わたくしを見るのかしら?そんなことを考えながら、わたくしは教室の扉を開けましたの。

「数学の宿題やった?」
「いや、まだ。休み時間にやろっかなって」
「あ、仁美、おはよー」
「えぇ、おはようございます」
「一週間も休んでたけど、大丈夫?」
「大分よくなりましたわ」
 何の他愛もない、朝礼前の風景。
「やぁ、仁美さん」上条君がわたくしに声を掛けてくれましたわ。
「もう元気になったかい?」
「ありがとう、上条君。もうすっかり元気になりましたわ」
「よかった。じゃあ、今日は一緒に帰ろう」
「えぇ、喜んで」
 
 さやかさんがいないというだけで、世界が変わってしまうのではないかと考えていたのは、私だけだったのかしら?さやかさんが死んだということが、ここまでクラスメイトに、そして上条君に心理的な影響を及ぼさないということがあっていいのかしら?いいえ、ちがうますの。そうではないんですの。みんな、悲しんだんですわ。自分の中で、さやかさんの死を悼んだのですわ。でも、その死を嘆き悲しむだけでは生きていけない。他者の死のことだけを考えていると、今度は自己の生に疑いを持ってしまいますもの。だってわたくし今、どうして自分がこんなにもいともたやすく生きているのか、わからないんですもの・・・

走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って、走って走って走って走って走って走って走って走って走って、走ってましたの、わたくし。
もう、あの教室にはいられない。
どう頑張っても、さやかさんのあの時の顔が、脳裏に焼き付いて離れないんですの。
「お幸せに」
さやかさん、どうしてあの時そんな冷たい言葉をわたしに掛けたのかしら?
さやかさん、どうして死んでしまわれたのかしら?
わたくしのせい?
わたくしはあなたの死の根源?
そんなことなら一層、
「このドロボウネコ」
ぐらい吐き捨ててくれませんこと!?
 残酷ですわ!あまりにむごいですわ!あなたはわたくしをまるで責めようとしなかった!わたくしはあなたと勝負がしたかったのに、ハナっから相手にされていなかった!もし、自分が上条君と結ばれたとしたら、恋に破れたが故に自殺するような女だと思っていて!?みくびられたものですわ!あなたにとってわたくしは・・・

 神様
 神様
 神様

 三回唱えましたの。
 いい加減出てきて下さいな!
 メイドにでも女衒にでもなりますわ。
 ですから、、、あの女を、、、さやかさんを、、、生き返らせて下さいまし!!!!
「君の願いは魂を掛けるに足るものかい?」
 あぁ、ようやくおいでなすったわね。純白の身体に、真っ赤な瞳の獣。神の使い魔と言ったところかしら?
「ぼくと契約して、魔法少女になったら、叶えてあげるよ!」
 魔法少女?まぁ、なんでもいいですわ。身売りするよりは、幾分かマシでしょうし。
「それでさやかさんを生き返らせられるのかしら?」
「大丈夫、君の祈りは間違いなく遂げられる」
 胸のあたりから光が放たれて、その光の放出とともに鶉の卵ほどの宝石がわたくしの胸から出てきましたの。
「さぁ、受けとるといい。それが君の運命だ」
 ソウルジェム。魂の器、そして具象化。あぁ、そうですわね。魂というものは、具象化されなければ、売り物にはならないですものね。

「仁美ぃ〜、宿題写させてぇ〜」
「あらあら、さやかさん。ダメですよ、宿題はちゃんとやってこないと」
(鹿目さん?)
「さやかちゃんも昨晩やろうやろうと思ってたのだ!しかし!」
「しかし?」
「・・・TV見てうとうとして、、、気付いたら朝だった、、、」
「あらあら」
(鹿目さんはどこへいったのかしら?)
「はい、すぐ写すんですのよ」
「ありがとう仁美!恩に切ります!」

 さやかさんはちゃんと生き返りましたわ。今は上条君にも自分の思いを伝えて、お付き合いされていらっしゃいますわ。これでいいんですの。
これが、本来あるべき姿だったんですわ(本当に?
わたくしが身を引いて、さやかさんの後押しをしてあげればよかっただけなんですわ(本当に?
でも所詮は学生時代の恋なんて、年を取るに連れて、薄れていくもの(本当に?
さやかさんと上条君だって、例外ではないはずですわ(本当に?
でも、わたくしは、わたくしだけは、上条君を一生愛し続けるでしょう(本当に?
わたくしが恋をする必要はありませんでしたの(本当に?
愛さえあれば、最終的に上条君はさやかさんではなくわたくしをお選びになるはずですわ(本当に?
必然的かつ自然に(本当に?
それまでわたしは待ちますわ(本当に?
今日も孤独に魔女退治にいそしむとしますわ(本当に?
愛が成就する、その時まで、この胸に秘めた愛の清さを保つグリーフシードを求めて。
(本当に、あなたが愛したのは、誰?)

 「仁美、今度私、恭介と結婚するんだ」

 そう・・・ですの

 神様
 神様
 神様

 3回唱えましたわ。
 これであなたはわたくしと共にあるに違いありませんわ。
 いい眺めでしょう?ここは。
 夜の見滝原市。
 ビルの屋上に、赤いランプがずっと灯っているのが見えるでしょう?
 あの光を眺めるのが、わたくしは好きでしたの。
 東京では、この赤いランプがたくさんあって、
 赤い光のワルツを踊るそうですわ。
 気持ちいい風ですわね。
 まるでモデラートなカンタービレ。
 単調に、歌うように。
 そう思いませんこと、上条君?
 すやすやと眠る。
 もう思い残すことはなくて?
 「ドロボウネコ」
 残されたものの不幸を悲しむ余裕なんて、わたくしにはないですわ。
 14才の、魔法少女になる前のわたくし。
「あなたの本当の気持ちと向き合えますか?」
 勇気を出して振り絞った過去の言葉。
 どうしてあんなことを口走ったのか、今なら分かるよう気がしますわ。

「わたくしは・・・ただ・・・」

 
 ソウルジェムを足下に置いて、
 呼吸を深く、
 吐息を立てるあなた、
 どうしでこんな簡単なことに、、、気づかなかったのかしら?
 愛していない、あなた、足下を、
 ふわっと、これから私たち
 空を飛ぶの、 
 10m、50m、加速度をまして落ちる、
 最後の風景、
 ビルの屋上に、赤いランプ、
 白につつまれた、女神のような(
 あれは鹿目さん?)
 100m,,,,
 最後の言葉、

「さやかさん、わたくし、あなたを愛していました。どうしようもなく、壊れてしまうほどに」