凸森の思弁的卵かけごはん

アニメ/マンガ/本/音楽/映画/グルメetc...エンタメ関連を中心に、日々の徒然を綴るブログです。

拝啓。坂木しずか様

はじめまして、坂木しずか様。
僕はSHIROBAKOのファンの者です。
昨日、拝見しました。SHIROBAKO第22話「ノアは下着です。」見ました。
もちろんあなたも出てました。
あなたは、白いTシャツにジャージのズボンという安っぽい格好で、暗い部屋で、○オン系列のお店で売っている安いPBの発泡酒を飲みながら、テレビに映る若手女性声優を、恨めしそうな顔で見てましたね。

惨めでした。醜悪でした。
僕と同じように。

僕も仕事から家に帰ると晩酌します。
あなたとほぼ同じ姿で、あなたと同じお酒を。
あのお酒、安いですよね。まずいですよね。
なんであのお酒買ったんですか?
僕は知ってます。あなたがあのお酒を買った理由を。
もちろん、安いからです。
だってあのお酒、500ml缶で125円で、350ml缶だと88円です。大手ビール会社の第三のビールより、格段に安いんですよね。大手のだと500mlで189円しますから、断然安いです。でもまずいです。

「そんな安いお酒飲むくらいなら、最初から買わないで、ビール飲むのやめればいいじゃん?そっちの方がよっぽど節約でしょ?」と人は言うかもしれません。
確かにそうかもしれません。実際、お酒を飲まない方が、お金かからないし、それに酔っていない夜の時間を有意義に過ごせるかもしれません。
でも、そうじゃないんです。そうじゃないんですよね?
お昼の時間に、仕事で疲れたり、人間関係に疲れたり、何もかもがうまくいかなかったときに、それが終わって、一日の最後の1〜2時間、お風呂に入ってさっぱりして、ビールを飲んで、お昼に被った疲れやうまくいかなかったことについて、なんにも考えずに、ただぼーっとテレビ見ながら、ぐいっと酒を飲んで、スナック菓子を食べる時間が無いと、やってられないですよね?生きていく甲斐がないですよね?わかります。ものすごくよく、わかります。
幸い、PBのビールはまずいけど、のどごしだけはビールだから、「あ、これでいいや」って思っちゃうんですよね?
だから、あのPBのまずいビールを買うということは、しずかさんや僕みたいなお昼の日の光の中での輝き方を忘れてしまった人間が行き着く、最後の手段なんですよね?
わかります、すごくわかります。

でも、待って下さいよ。
しずかさん、まだオーディション2回しか受けていないじゃないですか?
まだまだこれからじゃないですか?
それなのに、もう、4話で出てきた女子高生の声優に嫉妬して「代われ代われ」というには、少し早すぎるというか、乱暴すぎるというか、もう、とにかく醜かったです。




でも、それもよくわかります。すごくよくわかります。
僕なんかだったら、最初から才能なんて無いし、他人が自分を出し抜いた所で、それは当然の結果だと考えて素直に諦めます。でも、あなたそうじゃない。坂木しずかは違う。
あなたが抱えている、あなたのプライドは、他人が考えているより、遥かに高い。
まるで、絶対に咲かないテキサスの荒野で無理矢理にでも咲こうとしている、バラのように。
それはマンガで現れています。
高校時代のあなたは、ボイストレーニングを受けていましたよね?
声優になるために。
普通の人は「この子、意識高いなー」というぐらいにしか考えないかもしれません。
でも、僕にはわかります。わかってしまいます。
つまり、言い訳したくなかったんですよね?
これから過去になっていく自分に。
声優を目指していく過程で「私が今声優になれていないのは、声優を意識し出した高校時代から本気でレッスン受けてないからだ」と思いたくなかったから。
高校時代のあなたは、プロ意識が高くて、髪も赤くて、みゃーもりたちの他の女の子よりカリスマ性に溢れていて、みんなから憧れの的になるような女の子のように見えました。
えまたそもあなたにキスされそうになって、本当にドキドキしていたと思います。
でも違うんです。そうじゃないんです。
あなたは平凡です。
「ボイトレ受けてるんだ」
とみゃーもりたちに言ってしまっている時点で、平凡そのものです。
非凡ならそんなこと言いません。
「自分が努力しているんだ」と自分で断言してしまっている。
従って頭も良いとも言えません。
むしろあなたは頭が悪いです。
今回の22話でもあなたの頭の悪さが見られました。
テレビ越しに映る女子高生声優を見たとき、あなたは絶対こう思ったはずです。
「私の方が、この子より明らかに才能があるし、その才能に慢心せずに努力もしているのに、どうして・・・」と。
あなたは決定的な思考停止に陥っている。
どこに思考停止があるかというと、
「才能という物は徹頭徹尾自分の内に存在する何かだ」
と言う考え方から一歩も出ていない所です。
才能というものを〈個人が内に秘めているゴールへの”絶対値”〉だと勘違いしている。
そんなはずある訳が無いじゃないですか?
だって、もしそのような才能の“絶対値”が存在するのならば、その“絶対値”の高さに応じて必ずゴールする順番が決まるじゃないですか?
でも、現実はそうじゃない。
同じゴールを目指している2人の人間がいたとして、彼らの間に才能の“絶対値”おける差があったとしても、“絶対値”の低い方から先にゴールすることだって、往々にあるでしょう?
つまり、「ゴールに辿り着ける力」を仮に才能と呼ぶのであれば、それは徹頭徹尾自分の内なる何かによって決められるのではなく、むしろそれプラス環境・状況・タイミングなどの、外的な要因とのバランスをうまく保つことが、〈才能〉ということになるでしょう。
そんなことも考えられずに、やけ酒を飲んでいるあなたは、やっぱり馬鹿です。
・・・いや、そうじゃない。そうじゃない。
あなたはそんなこととっくにわかっていた。
それでも、酒を飲まずにはいられなかった。
世界のその、不条理さに、
世界が自分の思いどおりに進まず、全てが自分の敵だという、誇大妄想に、
苛まれて、苦しんで、涙を流して、
ガキだね、本当ガキだよ、そんなの、
でもさ、世界も、他人も、僕も、あなたも、
そんなもんだよ。
しょーもないよ。
それでも、そんなしょーもない世界の中でなんとかしていかなくちゃいけないんだよ。
だから、これからもいっぱいオーディション落ちて、挫折して、夢を忘れて、みんな嫌いになって、みんな死んじゃえって思って、みんなを殺すのは時間も手間もかかるから自分が死んじゃおうって思って自殺未遂をして、みゃーもりたちがそのことに引いてあなたから離れていって、誰一人友達と呼べる存在がいなくなったとしても、僕はあなたのことが好きです。
だからSHIROBAKO最終話、ずかちゃんの活躍を、楽しみにしてます。

敬具。