『N・H・Kへようこそ!』妄想の中でしか生きられない人々
凸森です。
先日の休みに、妻と『N・H・Kへようこそ!』を一緒に見た。
きっかけはフォロワーの方が再視聴していたから、釣られて見る形に。
実を言うと、僕はNHKのアニメをちゃんと見たことなくて、漫画で読んだだけだった。
僕がこの漫画を読んだのは、確か10年くらい前だと思う。
このころ僕は大学生2〜3年生ぐらいで、初めて彼女ができて浮かれてたのをよく覚えている。
彼女ができたのは夏だった。
しかし、季節が冬に近づくにつれて、僕と彼女の関係にも肌寒さが感じられるようになった。
ある日、高田馬場のバーで彼女と喧嘩した時に言われた一言、
「あなたのことは好きだけど、愛しているとは言えない」
その次の日、この言葉の意味を探すために、僕は函館に向かった。
学校とか、バイトとか、生活とか、いろいろすっぽかして、要するに自暴自棄で自分勝手な逃避行を敢行したのだ。
12月の北斗星号の中で、何もかもを忘れるように爆睡。
函館について、いくら丼を食って、パチスロで3万溶かしたのちに向かった先は漫画喫茶。
この漫画喫茶で3週間ほど宿泊して彼女から言われた言葉の意味を考えていた。
・・・嘘だ。
なんにも考えずに、とりあえず漫画を読んで無為な時間を過ごしていた。
長くなってしまって恐縮だが、この時に読んだのがNHKの漫画版だったというわけだ。
この時、どれだけ佐藤さんのクズさに自分は救われたかわからない。
この漫画に出てくる全ての人物が、クズで、簡単に嘘をつき、自分に甘くて、他人に不平不満を撒き散らす。
「何一つ学ぶところがない・・・」
それが、当時の僕には最高にエクスタシーだったし、カタルシスだった。
・・・
そのあと、いろいろあったのだが(本当にいろいろあった)、とりあえず今現在僕は良くも悪くもない額のサラリーをもらい、土日は休みで、そしてなによりかわいい妻がいる(もちろん、「好きだけど、愛していない」の人とは別人だ)。
そんな妻と、10年前に僕を決定的に慰めてくれたNHKを見るのは、なんだか未来と一緒に過去を見ているようで変な倒錯感に最初こそ駆られたが、話が進むに伝れて物語に没入していった(なお、妻は要所要所で佐藤さんにキレてた笑)
ひとつ感じたのは、漫画に比べてアニメは非常に静かで、叙情を感じられること。
また、挿入歌が素晴らしい(特に「ダークサイドについてきて」は本当にいい曲・・)
そして、やはり、何と言っても、中原岬はいつまでも、あの"2002年"という喪失感とインターネットが錯綜する疾風怒濤の時代現れた鬼才・滝本竜彦が産み出した、我々に最高に都合のいい想像上の天使だった。
妄想でしか生きられない人々。
アニメ最終話、岬ちゃんを救うために大言壮語(というか誇大妄想)を吐いてまで、岬ちゃんの自殺を食い止めようとした佐藤さんを見て、なんというか、人間の"精一杯"とはまさにこのことを言うのだと感慨に耽り、これはアニメであるにもかかわらず、現実よりも質感をもった超現実を見ているようで、涙が止まらなかった。
妄想で一人の女の子を救った男。
やっぱり佐藤さんは、今も昔も僕らの(アンチ)ヒーローだ。