凸森の思弁的卵かけごはん

アニメ/マンガ/本/音楽/映画/グルメetc...エンタメ関連を中心に、日々の徒然を綴るブログです。

 明け方に仕事が終わった。
 帰り道の大久保通り、小さな信号の横断歩道を小中学生が渡っていた。もう、そんな時間だった。最寄り駅前の交差点にも通勤通学の人々で溢れていた。僕はロードバイクから降りて信号を横断した。
 青梅街道という大通りから南に外れて、住宅街の狭い道を少し行ったら僕の住まいだ。この辺には中学校と小学校がある。僕の家に向かう途中の外れ道でもよく小中学生とすれ違った。
 最後の一区画の小さな交差点の、ちょうど中心で、ひとりの少女が顔をムスッとさせて仁王立ちしていた。
「いい顔だ」
 そう思った。
 本当に、いい顔だった。
 毎日一緒に登校している友達が遅れているのだろうか?
 昨日消しゴムを貸した同級生を待っているのだろうか?
 昨日少女の友達に意地悪した男子生徒に一言言うために待ち伏せしているのだろうか?
 それはわからない。それは少女の中だけにある。
 でも、とにかく、いい顔だった。
 子どもにしか出来ない、ムスッとした顔だった。
 そこには打算がない。
 そこには見返りがない。
 そこには後先がない。
 トリュフォーが好んで撮りそうな顔だ。
 僕にも、あんな顔をしていたころがあったように思う。
 どうやってするんだろう?
 今はもう、覚えていない。
 そんなことを考えながら、
「正直交差点のど真ん中で立たれるのは邪魔だな」
 と思いながら、僕は自転車を降りて少女を避けるように歩いた。